お口の終活外来を始めました
はじめに
今や我が国は世界に誇る長寿社会になりました。
元気に楽しく長生きすること とても素晴らしいことですね。
しかしながら平均寿命が長いことが幸せに必ずしもつながらないという下の図のような皮肉な現実があります。
つまり、大切なのは健康寿命なのです。
そのためには日ごろから身体と心の状態を健やかに整えておくことが大切になります。
友人と話をする 食事をする 旅行する などが苦痛なくできることが、暮らしていく中での大きな楽しみになります。
そんな楽しみに欠かせないのが「お口の健康」です。
月並みですが、そのためにも日ごろから歯科医院へ定期的に通院することが重要になります。
さて
しかしながら、上の図が示すように 現実には一番大切な人生の後半に歯科医院を外来受診する方が減少しています。
一方
8020 ハチマルニイマル 80歳で20本の歯を持っている方が約半数を越えた現在ですが 残念ながら健康な状態ではなく う蝕や歯周病に罹患した状態です。
つまり 歯はたくさん残ったけれど う蝕や歯周病が高齢期に持ち越されたことを意味しています。
では その後はどうなるのでしょうか そして どうしたら幸せに過ごせるのでしょうか。
なぜ今お口の終活か
約33年間 診療室で診療するかたわら 在宅訪問診療を続けてきてたくさんの患者さんのお口の中を拝見させていただきました。
とても厳しく残念な思いに駆られたことはたびたびで いつも歯科医としての無力感にさいなまれておりました。
ところが 長年予防のため定期通院されていた方が、要介護状態になられ退院後ご自宅を訪問した際、要介護者にありがちなお口とは異なる状態を拝見することとなりました。
つまり、お元気なうちにしっかり治療・予防指導を受けていた患者さんのお口の中はケアなどの対応が易しい綺麗な状態だったのです。
そんなことから お口の終活の必要性を感じました。
まずはお元気なうちに失ったお口の機能と形態を整え不都合のない状態にしておくこと。
具体的には、介護が必要な状態になってもお口のケア・清掃のしやすい、様々なリカバリー可能な治療装置(義歯・冠・インプラントなど)にお口の中をしておくことが、万が一不幸にして介護が必要になった時の備えとして必要であるし、有効だと痛感したからです。
少しずつ加齢変化が出てきたお口
一例として唾液分泌が悪くなり独特の歯頚部う蝕が多発
人生のライフステージごとの歯の存在は
- 歯や義歯が全身の健康に寄与するステージ⇒歯はないといけない
- 歯や義歯による効果が相対的に低下するステージ⇒歯はあったほうがいい
- 歯や義歯の存在がリスクとなるステージ⇒歯はないほうがいい
図のようにその存在意義は推移し、大切な食べるための道具であったはずの歯が、不幸にしてお口を傷つける凶器となってしまうのです。
歯科医院へ通院できなくなったら
その場合は、訪問診療が必要になります。
私も訪問診療を始めて30年以上になりますが、始めた当時は義歯の修理・調整・新製が主体でしたが、歯がたくさん残るようになった現在はその治療対象も大きく変化してきております。また、通院できなくなった原因も以前はその大半が 脳卒中などの脳血管疾患の後遺症でしたが、現在では認知症によるものが大半を占めるようになってまいりました。
結果として、治療自体が大変困難となってきております。
ではどうしたらいいのか
通院可能な60代から70代の前半までにしっかりとお口の健康を維持するための治療をすることが大切になります。
そして その状態を長く維持できるように 定期的な管理を続けることが有効になります。
事実、そのような経過をたどり不幸にして脳卒中のため通院できなくなった患者さんの場合は、小さな問題だけでほぼ定期管理の延長線上で訪問診療が進められています。
年代に関係なく 悪くなったら受診 痛くなったら受診は最悪の結果を生み出します。
さらに 高齢年代においては、疾病や障害のため次の通院機会も厳しくなります。
また う蝕や歯周病以外にも下の図のように 咀嚼障害となる様々な問題が疾病の結果として派生してまいります。
具体的には
健康な状態でのセルフケアを高め維持するために
- う蝕を治療する
- 歯周病の治療をする
- 歯磨きの個別指導を定期的に受ける
など当たり前のことをするのですが
その視点がいささか壮年期までの患者さんの治療方針とは異なってまいります。
歯を残すことに妄信的な重点を置くことなく予後の予測を重視します。
つまりこの機会が、大きな治療計画としては人生最後の計画になるためです。
そのポイントとしては
- 短期間で問題発生が見込まれる歯は原則として無理して残さない
- 清掃性の良い治療装置を設計する
- トラブルに対処しやすい修理など対応可能な治療計画とする
終末期のお口の問題
口腔ケアの不良
不潔な義歯
折れて縁が鋭く尖った歯
歯周病による歯肉からの出血
そして、認知症による意思疎通の困難
など 口腔ケアや治療を困難にする問題がたくさん出現いたします。
最終的には
以下のような状態になる前にしっかりとした治療・予防処置を終了しておくことが大切です。
お口の終活の目安
□65歳以上である
□「フレイル」と診断された
□診療中の「むせ」が頻繁になった
□口腔内が不潔になってきた
□根面う蝕が頻発した
□認知症と診断された
□神経筋疾患と診断された
終末期のお口の問題としては、残った歯がお口にとっての凶器になったり、本人が治療を受けられない状態になり 解決できない持続的な痛みの原因になるからです。
お口の終活をはじめるにあたり
- かかりつけの医師とその病気について
- お薬手帳について
をお忘れなくご申告ください。
以上 古瀬歯科医院からの提案です
ご興味のある方は
古瀬歯科医院 03-3909-6418 までお電話にてご予約ください。
お口の現状の診査の上 今後の対応についてご説明の上、ご相談したいと思います。
参考文献
歯界展望別冊 超高齢社会の補綴治療戦略 2020